レストランに学ぶ制約条件理論

制約条件理論をご存知でしょう? エリヤフ・ゴールドラット氏により書かれた「ザ・ゴール」(http://amzn.to/1M6qoz2)で示された、制約条件理論(TOC)を小説仕立てで解説した本で、トヨタ式やリーン、シックスシグマと並ぶ、製造業の効率アップに欠かせない理論が制約条件理論です。最近漫画仕立ての版を書店でも見かけましたが、この制約条件理論が使える実例を旅先で偶然見ることが出来ました。

先日地方に旅行に行った時立ち寄ったとある漁港の直営レストラン。様々な鮮魚・煮魚が美味しいという触れ込みで寄ることにしたのですが、人気なのか、12時にレストランに着いた時点ではレストラン(2F)にあがる階段の下まで列が並んでいました。

列の最後部に並び、階段を1段1段あがり、15分ほどで2Fのレストランの入り口にたどり着きました。そこから見えたものに私は仰天しました。見えたものはガラガラの客席でした。

これだけ行列を並ばせておいて、なぜ客席はこんなにもスカスカなんだろうと疑問が湧きます。前払い制らしきそのレストランのレジまではまだ20人ほど先客がいるので、レストランのオペレーションを見ながらだんだんと合点がいきました。

前払い制のレストランですが、まずはその注文レジの数m手前の床にラインが引いてあり、そこに簡単なメニュー看板と、ここでお待ちくださいという旨の表示があります。列の先頭でこのラインに来たら先の方のレジにいる女性の指示を待ちます。女性はマイクで「少々お待ちくださいー」「次のお客様レジにお進みくださいー」という風に、そのラインで待たせたり、レジに客を呼び寄せたりする。レジに呼ばれた客は、そこで詳細なメニューを見て、何にしようかと連れと相談してメニューを決める。オーダーしたら精算し、番号カードを持って空いている席に座る。すると程なく、程なく料理を持ったホールスタッフが番号を連呼しながらやって来るので受け取って食事をする。食事が済んだら織機はそのままに退出するという流れでした。

まずボトルネック工程がレジでした。レジに到着しなければ全てのメニューが見られないので、そこでお客様が注文決めるための検討時間=レジ側にしてみれば待機時間が短くても30秒、ながければ1分以上かかってしまいスループットが出ません。たとえば女性は男性に比べて時間がかかることは経験的にわかっています。私の奥さんはファミリーレストランでさえ3-5分かけて注文を決めることが有ります。そう簡単に注文は決められません。

このレストランでも女性客が1分以上あれこれ悩んでいる様子が見られました。レジの女性は急かそうとするのですが、それが多少強めだったため、顧客の不興を買うのではないかとヒヤヒヤしましたが、まあお客様も大人なのか苛立つ風でもなくやっとこら注文を済ませていました。

そのようにレジがボトルネックになると、後工程の厨房は手が空いてしまいます。サラダを持ったり、ご飯をよそって丼もの注文に備えるにしても時間が余っているようです。私が注文したものは、席について間もなくホールさんが料理を運んできました。このレストランのメインメニューは各種の海鮮丼と煮魚で、基本は皿に盛る手前までは仕込みが済んでいますのであっという間に料理が出てきます。海鮮丼は、冷たい料理だからか時間も短く、数分で食べ終わって席を立ちました。

問題は明らかです。レジに来るまで料理が決められないため、レジで時間が掛かりボトルネックが発生、それがお店全体のスループットを下げて単位時間あたりの売上や総売上にマイナス影響を与えている、ということです。

サービス満足度も低いでしょう。20分待って5分で食事が終わるような店はリピート顧客もなかなか増えず、レジを仕切る女性の口調も上から目線でサービスの質の低さが目につきます。どうも観光客に依存して成り立っているようにも思えました。

また、追加注文がしづらく、ビールなどの客単価を上げて利幅の取れるものの再注文の仕組みがわかりませんでした。またレジに並ぶのなら飲む気も失せますので、客単価を下げてしまいます。どうせ席は空いているので、のんべえにはたくさんの飲んでもらえばよいのにもったいないことです。

改善策はいくつかあります。このやり方を変えて、普通に着席してオーダーを取るやり方です。食券方式が成功するにはいくつか条件があり、それは自らの体験をさかのぼって考えれば皆さんにもお分かりいただけることだと思いますが、まずはメニューが単純もしくは想定範囲であることです。

食券制を取るレストランの代表格はまずは学食です。メニュー数も少なく入れ替わりも高頻度ではないため、学生がメニューを決めるのには手間取りません。その次に思い浮かぶのは、高速道路のSAのレストランです。SAのレストランのメニューはたいて定番料理で、それにくわえていくつかの地元の名物料理であることが多いのですが、ハンバーグやスパゲティがメインとすれば、決めるのには時間がかかりません。

一方でこの漁港のレストランは珍しい魚や生きのいい鮮魚がたくさんあります。あれも食べたい。この特選海鮮丼にはマグロの大トロが入っているが、こちらの漁港丼には美味しそうなアジのたたきが入っており、どっちにしていいかわからない。たくさんの発見があるメニューですのでレジ前で速攻決めてくれというのは無理があります。

ですので食券制を辞めるのが第一の解決策です。

2つ目の解決策は、事前にメニューを配ったり、廊下や階段にメニューを掲示しておくことです。このレストランでは一部のメニューが壁に掲示されていましたが、全てのメニューが判るのはレジ前だけでした。掲示しても良いし、実際のメニュー表を配ってもよいでしょう。多くのレストランがこういう手段を取っています。

3つ目の解決策は、レジの増加です。レジを2倍に増やせばスループットが2倍になりますので即効性もあります。

このように制約条件理論を活用すると、レストランの業績向上にも使えます。ご興味のある方はザ・ゴールとそのシリーズをお読みになることをお勧めいたします。